注目の研究科リポート

テーマ:戦略思考特論
ケースを検証し、徹底して議論する 戦略思考を高める緊張の90分

三谷 宏治 教授
K.I.T.虎ノ門大学院(金沢工業大学大学院)
イノベーションマネジメント研究科

恥をかくことが学びにつながる

K.I.T.虎ノ門大学院(金沢工業大学虎ノ門キャンパス)のビジネスアーキテクト専攻は、1年間のカリキュラムを2カ月ごとの4期制としている。

「4期制にすることで、カリキュラムに起承転結をつけました。基礎、応用、応用ときて最後に演習という流れです。大学院で学ぶならば、学生には知識だけではなく、“技”も身に付けてもらいたい」と、三谷宏治教授はその意図を語る。

三谷教授が目標としているのは、すべてのビジネス思考の基礎となる「重要思考」のスキルアップだ。さらに、“Customer=顧客”、“Competitor=競合”、“Company=自社”の3C分析に“Customer”をBC“Battle Circle=土俵”に置き換えた「B3C」と、ビジョンと事業戦略、機能戦略の3つの階層を持つ経営戦略をつながりとして考える「戦略ピラミッド」、そして戦略を立案する際に比較する軸を絞り込んで評価する「戦略的オプション比較」のフレームワークをベースにした思考能力も主眼に置いている。

「基本的に講義では、ケーススタディを中心に考えて、議論をし、発表することを繰り返します。メモを取るよりも発言に集中し、分からないことがあれば質問することが大切。発言も言いっ放しではなく、必ず自分の発言に対してフィードバックを得ることに価値を置いています。授業中に恥をかくことが、学びにつながるからです」と三谷教授は言う。

グループ討議は学生主導

三谷教授はこの言葉を、2期の「戦略思考特論」の1回目の授業の冒頭でも、学生に向けて発言している。そしてその言葉通りに、学生の発言に対してはダメ出しの連続である。既に1期で学生全員が、戦略思考要論を受講しており、三谷教授の容赦ない指摘に対して、学生も臆することはない。

戦略思考特論の1回目の講義で取り上げられたケーススタディは、1982年に米国で初めて本格的な全国紙として発行された『USA TODAY』である。発行元は、米国で地方紙85紙を発行し、TVは23局を有して2000万世帯にリーチしている、マスコミ業界のコングロマリットのガーネット社だ。

日本では、1000万部もの新聞が発行されているのに、なぜ米国ではそれまで全国紙が発行されていなかったのか。ターゲットとなる読者層は何処にあるのか。市場の背景にある通信網や配送などのイノベーションは何か。収益に見合うコスト構造は――。これらの課題を、主に前述した重要思考とB3Cのフレームワークに則って、学生に考えさせる。

いくつかの背景となる市場性や現状分析の資料を提示されて、学生はまず5分間の思考時間を与えられる。資料を読み込む学生たちは真剣そのもの。皆、一言も発しない。その後、4~5人ごとの4つのグループに分かれて、ディスカッションを進めていく。その間、三谷教授は一切口を挟まない。学生同士の討議は完全に自主性に任されている。

そして、ディスカッション後のグループごとの発表では、三谷教授は視点の甘さを次々と指摘していく。

自分で考え、スキルアップ

「事業計画で当初、赤字でも良しとしたのは、ガーネット社が他の事業(地方紙などの発行)による黒字で補てんできるという強みがあったから」「1982年当時に、コングロマリットの会社として衛星回線を有していたことが、全国紙の発行に有利に働いた」などの発言に対しては、提示された市場背景を説明しているのに過ぎないと、三谷教授は看破する。 「ケーススタディを考えるときに大切なことの一つは、B3Cのフレームワークにおける、“Battle Circle=土俵”の中の市場の魅力度と事業特性をどう見るのかということ」

そして、当時、米国全土を飛び回るビジネス旅行客が1日に約100万人にまで増えたことから、彼らを顧客ターゲットにした全国紙の需要が生まれたことを挙げた。これが市場の魅力度の一つだ。

一方で事業の特性では、新聞の発行にかかるコストでは、固定費の占める割合が大きいことを指摘する。この固定費の比率が大きいために、州を超えて新聞を発行する難しさを解説した。

学生の「地方紙が中心の米国の新聞業界は、小粒のプレーヤーがほとんど。資本を注入することで、容易にトップになることが可能だったのでは」という発言に対し、三谷教授は「小粒のプレーヤーしかいなかったということは、米国の新聞業界は地域寡占状態、地域分散型の事業特性を持つ」として、新聞発行における固定費の比率の高さから、むしろ新規参入の難しさを指摘した。

「しかし、ガーネット社は地方紙を多く抱えているというネットワークの強みを、配送費や販売費などにかかるコストに還元できると判断したのだろう」と三谷教授は言う。

講義の後、三谷教授は次のように語ってくれた。

「講義を通じて、自分自身でどう考えるかが重要です。ケーススタディを繰り返して、戦略思考のスキルアップを図ってほしい。この講義では最後に、自分の会社の事業戦略を発表します。そのときは、改善というレベルではなく、大逆転的な戦略、新規事業を狙ったものであることを期待しています」

(出典:日経BPムック 日経 大学・大学院ガイド)

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