慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科

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教授紹介

谷口 智彦 教授

谷口 智彦 教授
慶應義塾大学大学院
システムデザイン・マネジメント研究科

国際政治経済システム論

アタマを二度、三度鍛え直すため

社会人に対する「リカレント(繰り返し)教育」の意義を聞く機会が増えました。世は人生百年時代。そんなに長く生き、働くことになるなら、20歳前後の時期だけでなく、職業人生の節目、節目でアタマを二度、三度と鍛えた方がいいのは当然でしょう。ロケットなら、多段式にしないといけない。本研究科(慶應SDM)は時代のそういう要請を先取りし、ちょうど10年前にできました。
象牙の塔に入りたい人には、初めからご縁を求めません。知の異種格闘技に飛び込んで、生きのびる実践力を自らたくわえたいと願う人。そんな男女のための、慶應SDMです。
システムズ・エンジニアリングと、その兄弟か姉妹に当たるデザイン・シンキング。慶應SDMには、2つの色鮮やかな旗が翻っています。これらはいずれも方法論的体系で、その精緻化を追い求める新たな学統なのです。
その昔、ロケットに人間を載せ宇宙に送ろうとした米国のエンジニアたちは、振動、熱、圧力、その他もろもろ、計器の針が振り切れそうな環境で、電気回路や通信系統を設計通り作動させなければなりませんでした。
そこから発展したのがシステムズ・エンジニアリングです。人間と機械、電気回路と燃焼系、あるいは部品相互の関係などインターフェイスのつなぎ方ひとつで、莫大な投資が無に帰しかねない。それどころか人命を危険にさらします。一発必中のシステムをどう組むか、アタマを絞った先人たちが編み出したのが、ある種の記述法だったのです。
「この設計を採用したのは、いったい何を考慮したからか」。「どんな機能を実現するためだったのか」。いつでも確かめ直せるよう、初めは延々と言葉をつづりました。

修論は多音を鳴らすポリフォニー

次第に、図の書記法を確立し、独特の記号体系を生み出します。目的はいつも同じ。気が遠くなるほど複雑な仕組みを、極力失敗を減らしつつ、過てば常に立ち戻って修正できるよう心掛けながらどう組み立てるか。工夫を凝らす営みの蓄積が、システムズ・エンジニアリングの体系を生みました。
とこう見てくると、同じアプローチは無限の適用性をもつことに思い至りませんか。同時に、電子回路図を読んだり書いたりするのに一定の修練が要るように、システムズ・エンジニアリングにも当初集中した習得の努力が必要だとわかってもらえるでしょう。
慶應SDMでは最初の1年で記述法、発想法の体系をとことん身につけてもらいます。それはどこか、楽譜の読み方、書き方の習得と似ていなくもない。なぜならその次には、多くの要素が入り組んで、しかもひとつの楽想を奏でるポリフォニーを、習った体系を使って書いてみたいと必ず思うでしょうから。
慶應SDMの場合、修了に必須の修士論文が、それに当たります。演奏によって再現可能か、各パートは美しい音色を鳴らしているか。作曲と同様いやそれ以上に、組み立てるシステムには検証が求められます。ですから本研究科の課す修論は、容易じゃありません。文献の考証や訓詁学では到底済みませんから。
社会人の学生たちは、2年間、土日も、盆も正月もない暮らしを耐え抜きます。平日は日吉に駆けつけて、夜7時からの授業に出ないといけない。配偶者、家族の理解は不可欠です。でも理解を深める過程で学位を目指すあなたの努力が家族全員のプロジェクトとなったあかつきには、2年の月日は一生モノの思い出をくれるでしょう。容易じゃない、だからこそやってみたいという学生です、私たちが求めてやまないのは。

新幹線をつくった先人に負けないよう

慶應SDMが与える知の道具箱を手にすることは、自分のため、属する組織のため、ひいては日本の将来のためになります。
言語や記号に多くを頼らず、「ツーと言えばカー」でシステムを組むことにかけては、われわれの先人たちは達人揃いでした。
好例が、開業以来の事故被害者ゼロという記録をもつ東海道新幹線です。一編成当たり平均遅延時間が30秒を切る驚異的運用を、いまなお続けています。1960年代初頭の技術で、なぜあんなシステムがつくれたのか。世界のシステムズ・エンジニアたちにはそこが大いなる興味の対象で、私は近年、彼らのアジア太平洋総会に一度、世界全体の大会に一度、メインゲストとして呼ばれ話をしてきました。試みたのは、新幹線の生みの親・島秀雄の達成に焦点を当てた解説です。
T定規を製図版に当てて図面を起こした、そんな時代の壮挙です。目を丸くして聞いてくれるに違いないとは思っていた。反応の大きさは、予想をむしろ上回りました。
島はのち、宇宙開発の先導者となってそこでも偉大な足跡を残すのですが、もしいま生きていたら、若者たちをどしどし慶應SDMに送ってくれたのではないか。方法論的習熟を早めに得ておけば、新しいシステムをもっと上手につくれる、お国のためになるぞと、そう言ってくれていたのじゃないかと思うのです。
「およそ解けない問題はなし」――。慶應SDMで、そんな楽観論を身につけてください。悲観主義者に、未来は切り拓けませんから。

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