注目の研究科リポート

テーマ:働きながら、大学院で学ぶ
敬愛する教授の下で課題に取り組んだ経験が成長につながった

羽矢﨑 聡 さん(NTTドコモ 知的財産部)
K.I.T.虎ノ門大学院(金沢工業大学大学院)
工学研究科

入学理由

羽矢﨑聡さんが知的財産の世界に興味を持ったのは大学時代のこと。経営学部に在学中、通商産業省で知財に関する研究に携わった経験もあり、就職活動の際も知財部門にターゲットを絞った。そんな羽矢﨑さんが、金沢工業大学大学院(K.I.T.虎ノ門大学院、以下KIT)工学研究科の知的創造システム専攻を選んだのは、知財戦略の大家である丸島儀一客員教授の下で、国際標準化戦略を究めるためだった。
「勉強自体は独学でもできる。では、大学院に行かないと絶対に得られないものとは何か。それは、普通に働いているだけでは知り合うことができない、知財戦略の第一線で活躍してきた一流の方々に直接自分の課題をぶつけてアドバイスをいただけること。そして、同じ志や高い問題意識を持った異業種の同期たちと徹底的に議論したり、交流したりできることです」。羽矢﨑さんは入学理由をこう語る。

入学と同時に転勤に

羽矢﨑さんが入学したのは2009年4月のことだった。平日夜間と土曜日の講義を中心とする1年制コースで、羽矢﨑さんも当初は都内の職場から平日夜間に通うつもりだった。ところが想定外の事態が発生。入学直前、東京の本社から山梨支店営業部門への異動が発令されたのだ。 「これでは入学は断念せざるをえないと思いました。でも丸島先生が背中を押してくれたことに加え、KITの事務スタッフの手厚いサポートもあって、どうにか入学を決断することができました」
とはいえ、さすがに通学に約2時間もかかる甲府から東京まで、週に何回も通うことは難しい。異動したばかりの職場で、初めて営業や販売企画の業務に携わることになり、負荷も増える。そこで、羽矢﨑さんは事務スタッフのアドバイスに従い、入学後半年間は休学制度を利用することに。そして、新しい職場に慣れてきた9月から平日週1回と土曜日というペースで通い始めることにする。
「平日は夕方に1時間年休を取って、甲府駅発17時台の特急あずさに飛び乗りました。講義が終わった後は、居酒屋に場所を変えて(笑)、議論の続きに熱中。そのため、終電で帰れないこともしばしば。24時間営業のマンガ喫茶で時間をつぶし、朝5時くらいの始発列車に乗って甲府に戻り、自宅でシャワーを浴びてから出社するという生活を2年間続けました」
そこまでして通いたいと思ったのは、羽矢﨑さんにとって大学院で過ごす時間が何物にも代えがたい至福の時間だったからだ。
だが、休学を含む在籍期間の上限は4年間。このままのペースでは修了は不可能だった。「修了は諦めるしかないかな」―。そう思っていた矢先のこと、再び辞令が下り、2011年4月から東京本社の知的財産部へ戻ることになった。
東京に戻ってからは平日の夜間週3回と土曜日をすべて講義やゼミに費やした。そして入学後3年目となる2012年3月、無事に大学院修了を果たす。「正直に言うと、半年ごとに授業料を納めるたびに、このまま通い続けるべきか迷ったのも事実です。しかし結果的には3年間かけて修了したことで、丸島先生の哲学をじっくりと学び、自分のものにすることができました。より広く深い人的ネットワークを形成できたのも大切な財産ですね。諦めずに続けて本当によかったと思っています」。

もがいているときが成長する瞬間

羽矢﨑さんが、丸島教授から最も影響を受けた言葉は、「本を読むな」だった。 羽矢﨑さんの知識欲は高く、普段から数多くの本を読みあさり、知識の蓄積と情報収集に努めてきた。だから、書物から得た知識は豊富にある。しかし一方で、誰かの知識に頼ってしまい、自分で考え抜いて知恵をしぼり出す姿勢に欠けていた。その弱点を見事に言い当てられたのだ。
「丸島先生のこの一言には目からウロコが落ちた思いがしました。それをきっかけに、とことん自分で考え抜くようになりましたね」
ゼミ以外にも、著名な教員陣が交代で講義する「知的財産戦略実務特論」や、国際交渉に必要な知識と戦略シナリオを修得する「国際交渉特論」など、どの講義も非常に面白く、毎回がワクワクする時間だった。
「そのため、仕事との両立が図れないと思ったことは一度もありません」。ただし、ゼミでの発表の準備に追われているときなどはプレッシャーを感じてよく夢に出てきたという。しかし、高い課題を与えられ、その課題を乗り越えるべく必死になってもがいているときこそが、自分が最も成長している瞬間であり、そういった厳しい環境は大学院に行かない限り、決して自分だけで作り出すことはできないものだと、羽矢﨑さんは強調する。
修了して約1年が経った現在、羽矢﨑さんの周辺にはどのような変化が見られているのだろう。
「職場では、知財戦略の観点から意見を求められることも増えました。自身の意見やアドバイスによって、社内の関係者から、感謝されるようになったのはとてもありがたいことです。研究開発部門の幹部からも『知財戦略といえば、羽矢﨑君だよね』と言われたときは本当にうれしかったですね」と羽矢﨑さん。大学院で培った視点や知識を、周囲と共有して組織的な実行力を高めるのが、今後の課題だと語る。
3年間の大学院生活は、羽矢﨑さんに知識のみならず、物事を考え抜く基本姿勢と周囲からの揺るぎない信頼をもたらした。

(出典:日経BPムック 日経 大学・大学院ガイド)

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